特定非営利活動法人 武道和良久

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誌上講座

誌上講座650「肥後の国から播磨へ ~覇から和へ」

肥後の国 熊本の地に早やよとせ(四年)
通いつめたる 成果ぞ出始む

火の国に 和合の技を広げむと
ともら集いて 演武をなさむ

ようやくに 皆も使命を自覚して 
立ち上がりたる 時ぞ来たれり

演武会 開催さるる前の日に
われもともらと 合流なさむ

朝稽古 終わりて一端ホテルへと
帰る車中で悪寒を感じぬ

なにならむ 体が急に重くなり
熱の出だして 震え来たりぬ

突然に 積み木の崩れし
その如く 息もたえだえへたれこむわれ

不覚なり 悔しかりしと歯噛みせど
何かに力を奪わる心地す

大事なる 演武の会を前にして
体調崩せし わが身口惜し

明日思い 大事をとって病院に
行かむと無理やりベッドを起きる

幸いに その日はいつもと違う宿
とりておるのも 神のはからい

その日にし 泊まるホテルに病院の
近くにありて われは駆け込む

急患で 飛び込むわれに院長は
補聴器もちて 診察なしおり

神妙に 調べるとても原因の
つかめぬ院長 腕を組みおり
 
こりゃ多分 過労に間違いなかろうと
早期に結論 出せしヤブ医者

とにかくに 点滴するのが一番と
われを寝かせて 腕に針差す

ぽたぽたと 落ちる雫のもどかしや
時間ばかりが 無駄に過ぎ行く

二時間の 点滴終われどいっこうに
回復しそうな 兆しもあらず

とりあえず 稽古あるまで休まむと
タクシー拾いてホテルに戻らむ

部屋に入り ますます症状悪化して
われはベッドでもがき苦しむ

明け方に なるまで吐き下し
繰り返したる ことの苦しさ

出るものが もう無きまでに出尽くして
あとははらわた 出るかと思わる

いままでに 味わいしことなきほどに
苦しみ襲いて のた打ち回る

もしかして 地獄というはこのような
ものかと思うほどに苦しき

今夜有る 稽古に行かねばならぬのに
体は床に縛られ動かず

携帯で いまの状態永井氏に
話せば稽古を休めとのらせる 

お言葉に 甘えて今夜は失礼を
させてもらうとわれは謝しおり

せっかくに 徳島からも応援に
駆けつけられしに 不甲斐無き吾

意識無く うつろなる中ひたすらに
神を思いて 祝詞唱える

かむながら たまちはえませようやくに
唱える言葉も力なきなり

気が失せる もうろうとなりしはざ間にて
耳うちするごと 声の聞ゆる

細川の 家に関わりある者と
感じてしばし身をば任せむ

肥後で死す 新免武蔵のかかりきて
わが身の内で 訴えはじむる

孤独なる 老後送りし剣豪の
無念な心の痛さ味わう

「慶長の 17年(1612)に舟島で
ありし出来事 いまも悔やむる」

「正保の 二年(1645)に病みて無念にも
寂しき生涯 この地で閉じたり」

「振り返り 振り返りみてもあやまてり 
佐々木巌流謀りしこと」

「もしわれに 悔いありとせば舟島で
汚き手立てに加担せしことなる」

「舟島の あとよりわれは剣を捨て
悔悟の生活送りたるなり」

「生涯の あらむ限りで償えど
償いきれぬ苦しさ覚ゆる」

「汝が剱に 巌流ありしを認めなむ
われも知りたや やまと心を」

「懐かしや 播磨の里に浮かびたる
白き雲間に飛び交うひばりが」

死ぬほどに 苦しみぬいてようやくに
武蔵の気持ちを少しは理解す

播州の 郷への想い断ち切れず
われにかかりきて 帰郷を望まむ

明け方に ようやく症状おさまりぬ
されど衰弱 極限なりけり

一睡も まったく出来ず一箸も
口に入らぬ 今朝のわれなり

ああされど 今日は大事の日なりしと
気合を入れて床から這い出ぬ

穢れたる 心と肉体清めむと
風呂にお湯張り禊すわれは

朝八時 半に車で向かえ来し
世話人さんに心配かけまじ

会場に 着けばみんなのすでに居て
慌しそうに準備なしおり

熊本の 稽古人らの集いきて
われを囲みて案じたまいぬ

もう今は 大丈夫なりと答うれば
皆の顔に 笑顔戻りぬ

会場は 予想に反し大勢の
観客来たりて 満席に近し

熊本の ともらの演武はじまりて
われも隅より 祈り見守る

水火も合い 一糸乱れぬ八力の
見事なりしに 拍手すわれは

われの番 来たりて前に進み出る
四代さまの御顔思いつ

いましばし われに力を与えよと
きみに祈りて 演武行う

一心に ただ一心にきみ思い
演武に臨めば 自然に動けり 

ともかくも 熊本和良久の皆さんの
おかげで演武は 成功おさむる

皆に礼 述べて早々に会場を
後にしわれは 空港へ向かう

世話人の 厚き配慮で空港の
特別サービス受くるを得るなり

フライトの 時間くるまで静かなる
救護室にて 横になりたり

誰もいぬ 救護室にて約4時間
心安けく 居眠りており

時間来て ANAの係りのご婦人が
ドアをノックし われを起こしぬ

眼がさめて 起きれば熊本徳島の
親しき友らの 案じ来たりぬ

無事家に 帰り来ますれどいっこうに
体の重きの失せることなき

数日後 播磨の稽古の日となりて
ようやく武蔵の思いを遂ぐらむ

播州に 来たりてみれば重かりし
体もたちまち軽くなるらむ

永き年 思い煩う剣豪の
悲しき気持ちもまたく晴れゆく

殺人刀 ふるいし君もようやくに
人をば活かすツルギを知りなむ

これからの 世の中決して争わず
和合をもちて 人を束ねむ

刀捨て ツルギを持つこそわが国の
兵法なりとは 誰が知るらむ