殴り合いの心理 (2)
審判の「始め!」の合図で蹴り合い、殴り合いが開始されます。
相手を舐めた態度でふてぶてしく攻めます。
もう技らしい技などなく、「絶対さがらないぞ!」と言う
不退転の精神で、前に前に出て行くことしか頭の中にはありません。
下がったら負けだと思い、ひたすら前進を続けます。
腹が、顔が殴られて痛い。苦しい。怖い。
顔に打撃を受けると、なぜか火薬くさい香りがします。
相手の攻撃が皮膚に当たり、肉を通して骨に衝撃を加え、
熱を生じ、そこに骨の中にある鉱物に似た何らかの成分が
抽出されて匂いを感じるのでしょうか。
腹に攻撃を受けると、息が出来ず、重苦しい鈍痛に襲われます。
膝蹴りなどでをあばら骨をへし折られた時には
折れた骨が内臓にちくちくと刺激します。
しかし、ここまで殴りあうと、体の神秘と言いますか
ある種の麻薬に似た分泌液が体内で発生しますので
緊張が続く間はあまり痛みを感ずることなく、立って居られます。
修羅の場とはこんなものか・・・と思われるほど
相手を罵る罵声と、自分の立場を保持しようとする
いやらしい感情に満たされます。
ちょっとでも形成が不利になってくると、
負けたらどうしよう・・・ かっこ悪いな・・・先生に、仲間に、
友達にどんな言い訳をしよう・・・
などともうあきらめ半分で、負ける理由を探し始めます。
早く時間がきて終わらないかな・・・ もう倒れて楽になろうかな・・・
いや、このクソ野郎こそ先に倒れないかな・・・
高尚な気持ちなど微塵もなく、殴り合い、 蹴り合い掴みあいます。
「くそ!死んでしまえ!」 「殺してやる!」
精神錯乱状態にも似たおぞましい修羅場がそこに現出します。
制限時間が来て、ようやく戦い終わると
そしてもし勝とうものなら、さっきのことはなかったような涼しい顔して
「みんなのために戦いました」などと自分を偽った
奇麗ごとを平気でいいます。
負けようものなら「全然効いてません。俺は負けてない。
もう一度やらせてくれ」と負け惜しみします。
まったく格闘の世界は虚偽の世界
獣の世界の何ものでもありません。
以上は私の現役時代の心情です。
続く・・・