「違うけど、違わない」(2)
75剱をやり遂げよう・・・
これが和良久の稽古人さんたちの
目標の一つでありましょう。
しかし、技の一つ一つの動きに
複雑微妙な動きが入り混じって
覚えるのに四苦八苦されています。
さて、私の使命は、言霊75声を具現化する
この75剱を、如何に平易に
皆様に伝えるかにあります。
難しいからと言って、技は変更、
または簡略化するわけにはいきません。
他力なる技に、
自力での工夫を付け加えることは禁物です。
それは神への冒涜にも似た行為と
思っています。
稽古というものは、
いにしえの姿を再現させることですし、
先人たちの築いた技と心を
忠実に復活させるものであると思っています。
形を変えてしまえば、
それは「稽古」でなくなり、
練習になってしまいます。
しかし、確かにこのままでは、75剱の道は
あまりに遠いと言わざるを得ません。
「こんなややこしい技を
どうやって伝えるのですか?」
・・・こんな私の悩みに対し、神様は、
いつものように、回答を与えてくださいました。
回答は速やかです。
『彼らが呼ばない先に、わたしは答え、
彼らがなお語っている時に、私は聞く』
〜イザヤ書
いつも悩み、不服を唱えてしまう私ですが、
それは一過性のもの、ということも
私は自覚しています。
なぜなら神は、答えをお持ちであることを
知っているからです。
(知っていても、親に無理言う子供のように
常にだだをこねていますが)
人間のこととて、取り越し苦労をしたり、
終わったことをくよくよと後悔してしまいます。
しかし神は言います。
『あなたがたは先の事を思い出してはならない。
また、いにしえのことを考えてはならない。
見よ、私は新しい事をなす。
やがてそれは起こる』 イザヤ書
昨日は、洛西道場の稽古日でした。
ここには、木村指導員と、
あと三人の少年たちがいるだけです。
たったこれだけの稽古人しかいませんが、
私にとっては、この四人が特別な存在なのです。
新しい試みが出来る・・・
それに耐えうる者たちです。
この日も、私は彼らにある試みをしました。
そして、それは成功しました。
また、稽古後、木村氏に稽古をつけました。
彼は空手時代を過ごした生き残りの一人です。
口数少なく、黙って稽古を受ける男です。
これは空手時代の連中に共通したものですが、
「なぜですか?」と言う疑いをまったく持たないで、
全面的に私を信じてくれるのです。
空手時代の者は、いま4〜5人ほど残っていますが、
彼らと個人的な稽古にはいると思わず、
昔の私の癖が出て、口調がつい荒々しくなり、
罵詈雑言を飛ばしてしまいます。
さすがに昔のように殴ったり、
蹴ったりしなくなりましたが、
それこそ今にも蹴飛ばしそうな勢いで
叱り付けて教えます。
昨日の木村氏にも、案の定、
こんな調子で稽古をつけました。
人一倍器用でない彼のこと、
私の怒鳴り声はさらに響きます。
それでも彼は、ひたすら黙してついてきます。
これは信頼関係にあるからと思っています。
私は、彼を信じています。
彼はもののふです。
いくら怒鳴っても、突き放しても、
ついて来てくれる・・・
そういった前提があってこそ、
厳しい稽古を課すことが出来ます。
私は、空手時代を含めて、
いままで大勢の門弟たちを指導してきました。
彼らの一部の者は言います。
「私は何があっても先生についていきます」
「どんな厳しいことでも耐えていきます」
しかし、実際にそう「言って」ついてきた者は
誰一人いませんでした。
本当についてくる者は、最初から言いません。
言葉に出しません。
自分を売り込もうとして言葉に出す・・・
それは、もののふにとって「恥」ということを
本能的に知っているからです。
水火に生きる者は、水火をもって示そうとします。
声高に叫ぶ、刀をさげた「サムライ」が
私は嫌いです。
黙って行う「もののふ」が私は好きです。
私たち大和の国の祖先は、
神の道を守ろうとした物部(もののべ)です。
この「もののべ」の生き様を「もののふ」
と言うのではないかと思います。
聖書にもあります。
イエスの弟子の一人のペテロが言います。
「主よ、私は獄にでも、また死に至るまでも
あなたとご一緒に行く覚悟です」
それにイエスは答えます。
「ペテロよ、あなたに言っておく。
今日、鶏が鳴くまでに、
あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」
案の定、その後イエスが捕らえられた時、
「おまえもイエスの弟子だろう」と
民衆に言われた際、ペテロは「そんな人は知らない」
と叫んで逃げ去ります。
イエスの予言どおり、
ペテロはちょうど三度叫んだのでした。
彼ははっとして泣き崩れました。
・・・遠い昔からあった人の心のうつろいは
時代が変わっても、そう違いはないようです。
話が飛びました。
さて、木村氏に怒鳴って教えた稽古法を、
皆様にはそっと伝えたいと思います。
続く・・・