特定非営利活動法人 武道和良久

特定非営利活動法人 武道和良久

誌上講座 誌上講座

誌上講座250


「素手の技」(5)


前号から続く、強さへの解明に先立って
私自身話しておきたいことがあります。

私は幼少より強くなりたいと思い続けていました。
それは今も何ら変わる事無くもち続けている気持ちです。
誰にもあったように、私も少年時代には、
テレビのヒーローに憧れて、背に風呂敷でマントをし、
机や塀など高い所に立って「その気」になったものです。

「強きをくじき、弱きを助くる正義の味方」こそが夢でした。
ですから単純に「喧嘩に負けない」強さが欲しかった・・・
からのスタートでした。

10歳の頃になると夢の実現のため空手を習いに行きました。
一生懸命稽古をしました。

高校になった頃には、住んでいた大阪から
わざわざ稽古のために東京にまで通うようになりました。

「牛殺しの大山」の異名に憧れてでした。
おかげで腕もめきめき上がりました。
もう何か武器でももったような気がするほど体は燃えていました。
それは、喧嘩をしても同年代の連中では物足りないほどに。

当時「わが命を捨てて惜しくないもの」と感じた空手に
なお没頭しました。
そして、極真会館最強の師範と言われた
四国本部の芦原英幸師に内弟子志願。

その内弟子時代の厳しさについては、
恐らくみなさんの想像を絶するものと思います。
喧嘩の強さから、本格的な格闘の世界での強さを求めました。
もう、そこに素人相手の喧嘩など眼中にありません。

全日本選手権大会の選手として
常人離れした過酷な訓練を課せられ、連日の壮絶な殴り合いの日々。

また、もっと最強の空手を目指して創った新しい組織
「正道会館」の設立に関わり、総本部師範に就任。
必然的にますます強さが求められる立場になりました。

一層稽古に励みました。
時に山に、野に、はてまた海外にまで足を伸ばし
自分の潜在能力を吐き出すべく、その可能性を模索追求しました。

そんなある日、また、何かがはじけ、脱皮したのを感じました。
別の世界への移行とでもいいましょうか。
徐々に、徐々に、しかし確実に足音を立てて身に迫ってきました。

見えない世界との葛藤が始まりました。他から自へ、外から内へ。

それまで、勝手に敵をつくり、勝手に怖がって、恨んでいた、
まるで精神病のような時期を過ごしていた自分の弱さに気づきました。

この世には、世界を動かす何かが存在するのでは?
そう思いますと、確実に強さへの欲求が変化していくのを覚えました。
いえ、戦うターゲットが変わったと言った方が良いかもしれません。

素人相手の喧嘩から、玄人相手の試合へ、
人の心の醜さへの怒り、社会悪への憎悪から、
戦争、飢餓への理不尽・・・戦う対照は歳とともに変化を遂げました。

強くなりたい・・・神の御意志を阻む何もかも撲滅させる
越えた強さが欲しい、そう思いました。
いまでも、対照は変化したものの強さへの欲求はまったく変わりません。

「前田さん、和良久のような不可解な稽古をして、
強くなることを諦めたのですか?」

この稽古に入って間もなく、そう言った方がおられました。
私は答えました。

「いえ、私は強くなる夢は捨てていません。
むしろ、いまは普通以上の越えた強さが欲しいと思うようになりました。
ものすごく強くなりたいからこそ、この和良久の稽古しているんです。
強くなるにはこの方法しかないんです」



続く・・・